安定した永久荷電と不安定な変異荷電とは? 土壌粒子が荷電をもつようになる仕組みを解説

スポンサーリンク

土壌が養分の保持能力をもつことができるのは、土壌粒子が荷電をもっているためです。

ではどのようにして、土壌粒子が荷電をもつようになるのでしょうか?

実は、土壌粒子がもつ荷電には2種類あり、それぞれ生じる仕組みが異なります。

というわけで今回は、土壌粒子がもつ2種類の荷電の違いを説明しながら、それらの2種類の荷電を土壌粒子がもつようになる仕組みを解説します。

土壌粒子が持つ荷電は2種類!永久荷電と変異荷電

土壌の構成要素は、有機物、無機物、水、空気、生物の5つです。

そのうち、土壌粒子は有機物腐植(ふしょく)と無機物粘土鉱物)からできています。

※腐植や粘土鉱物についてはそれぞれ別の記事で詳しく説明します。

この腐植と粘土鉱物があることによって、土壌粒子は2種類の異なる荷電をもつことができるんです。

永久荷電=安定した荷電

土壌粒子がもつ2種類の荷電のうち、安定した荷電のことを永久荷電と言います。

安定した荷電ということは、常に土壌粒子がもっている荷電ということです。

具体的に言うと、永久荷電は土壌粒子の骨格の役割をもっている粘土鉱物の構造が変化して生じます。

そして、この粘土鉱物の構造変化は、一度起こってから元に戻ることはほとんどありません。

そのため、「雨の全く降らない地域で急にスコールが降るようになった!」というぐらいに土壌がある環境が変化してしまうようなことがない限り、永久荷電が無くなってしまうことはないのです。

さらに、永久荷電はマイナス(ー)の荷電しかなく、プラス(+)の荷電の永久荷電は存在しません

その理由は構造変化の性質上としか言えませんが、次の章で粘土鉱物がどのように構造変化するのかをお話しします。

変異荷電=不安定な荷電

一方で、土壌粒子がもつ2種類の荷電のうち、不安定な荷電のことを変異荷電と言います。

変異荷電は永久荷電とは違い、土壌の環境が変化することによって生じたり、無くなったりします。

土壌の環境のうち、変化しやすいのは土壌溶液のpH変化です。

土壌の水分である土壌溶液は、中性になっていることはほとんどなく、その土壌ができた地域の気候や、肥料のあげ方などによって酸性やアルカリ性(塩基性)に傾いています。

※土壌溶液のpH変化については別の記事で詳しく説明します。

そのため、土壌溶液のpHが少しでも変化すると途端に土壌粒子が養分を保持できなくなってしまうようなこともありうるわけです。

しかし、永久荷電とは異なり、変異荷電はマイナス(ー)の荷電とプラス(+)の荷電の両方があります

詳しい仕組みは次の章でお話しします。

永久荷電は、粘土鉱物の構造が変化することで生じる

まずは永久荷電が生じる仕組みから説明します。

土壌粒子の骨格となっている粘土鉱物の構造を原子レベルで見ると、ケイ素(Si)原子と酸素(O)原子が連なっている層と、アルミニウム(Al)原子と酸素(O)原子が連なっている層が組み合わさってできています。※以下、Si原子、Al原子、O原子とします。

ちなみに、Si原子とO原子がくっついた層をシリカ四面体シートAl原子にO原子がくっついた層をアルミナ八面体シートと呼び、土壌の種類によってその組み合わさり方は異なっています。

※詳しくは粘土鉱物についての記事でお話しします。

今回の例では、シリカ四面体シートのみを示しますが、アルミナ八面体シートにおいてもこれから示す仕組みと同じ仕組みで永久荷電が生じます。

下の図は、構造が変化する前のシリカ四面体シートのイメージです。

プラス(+)の荷電を4つもったSi原子に、マイナス(ー)の荷電を2つもったO原子がくっついたものが規則的に連なって層になっています。

ところが、これから話す構造変化が起こると、規則的に連なった層の一部が乱れ、マイナス(ー)の荷電が生じるようになるのです。

下の図は、構造が変化した後のシリカ四面体シートのイメージです。

両方の図を見比べてみて分かることは、シリカ四面体シートの一部がAl原子に置き換わっていることです。

そして、プラス(+)の荷電を4つもったSi原子がプラス(+)の荷電を3つしかもたないSi原子に置き換わることによって、O原子のマイナス(ー)の荷電が1つ余ってしまいます。

この余ったO原子のマイナス(ー)の荷電が、そのまま植物の養分を引き付けるマイナス(ー)の荷電になるのです。

つまり、土壌粒子に植物の養分を吸着させるマイナス(ー)の荷電の正体の1つということです。

アルミナ八面体シートの場合は、Al原子と大きさの似たマグネシウム(Mg)原子やマンガン(Mn)原子に置き換わります。

しかし、この原子の置き換わりはどの原子でもいいというわけではなく、それぞれのシートを構成しているO原子以外の原子(Si原子やAl原子)と大きさの似た原子でないとおこりません。

このように、大きさの似た原子に置き換わることを同型置換といいます。

スポンサーリンク

変異荷電は、土壌溶液のpHが変化することで生じる

先ほど、変異荷電は粘土鉱物と腐植が持つ荷電で、マイナス(ー)の荷電とプラス(+)の荷電の両方があるとお話ししました。

そして、それぞれがマイナス(ー)の荷電をもつかプラス(+)の荷電をもつかは、土壌溶液のpHによって決まります

というわけで、ここからは粘土鉱物と腐植が酸性の場合とアルカリ(塩基)性の場合で、どのように荷電をもつのかを説明していきます。

土壌溶液が酸性のとき(粘土鉱物:シリカ四面体シートの場合)

まずは、土壌溶液が酸性のときの、粘土鉱物のシリカ四面体シートから見ていきます。

永久荷電はシートの構造内で荷電が生じていましたが、変異荷電の場合は構造の端っこに生じます。

そして、粘土鉱物の構造にはシリカ四面体シートとアルミナ八面体シートの2種類がありますが、実は、お互いまったく違う形をとるので混乱しないように注意してください。

はじめにシリカ四面体シートから説明します。

下は、土壌溶液が酸性のときのシリカ四面体シートの端っこの図です。

図にあるように、構造の端っこにはO原子があり、その先にH原子がくっついています。

本来ならば、O原子のマイナス(ー)の荷電が余っているためにマイナス(ー)の荷電が生じるはずです。

しかし、土壌溶液が酸性であるということは、水素イオン(H⁺)が大量に存在することを意味します

余っているO原子のマイナス(ー)の荷電のところへ水素イオンがくっつくことによって、電気的につり合いがとれ、マイナス(ー)の荷電が無くなってしまいます。

つまり、土壌溶液が酸性のとき、粘土鉱物のシリカ四面体シートでは荷電が生じません

土壌溶液が酸性のとき(粘土鉱物:アルミナ八面体シートの場合)

つづいて、土壌溶液が酸性のときのアルミナ八面体シートを見ていきます。

下は、通常のときのアルミナ八面体シートです。

シリカ四面体シートとは違い、端っこには水酸化物イオン(OH⁻)がくっついています。

このとき、電気的につり合いがとれているため荷電は発生しません

一方、土壌溶液が酸性になると、アルミナ八面体シートは下のようになります。

なんと、水素イオンが電気的につり合いがとれていたところへ強引にもくっついてしまいます。

水素イオンはプラス(+)の荷電を1つもつので、余分にプラス(+)の荷電が生じてしまいます。

このようにして、土壌溶液が酸性のとき、粘土鉱物のアルミナ八面体シートではプラス(+)の荷電が生じます。

土壌溶液が酸性のとき(腐植の場合)

つづいて、腐植の場合です。

腐植については別の記事で詳しく説明しますので、ここではざっくりと説明します。

腐植は、土壌に蓄積している有機物のほとんどを占めていま

動植物の遺体などが分解に分解を重ねて生成したもので、かたちもはっきりとしておらず、化学構造もとても複雑です。

ただし、荷電にかかわっているのは粘土鉱物と同様に構造の端っこのみなので、そこにフォーカスを当てて説明していきます。

下の図が腐植の構造を省いて構造の端っこを示したものです。

このように、腐植の端っこには炭素(C)原子とO原子とH原子(以下、COOHとします)と、O原子とH原子(以下、OHとします)がくっついています。

このCOOHとOHが荷電を生じさせます

下が土壌溶液が酸性のときの様子です。

アルミナ八面体シートのときと同じように、水素イオンがCOOHとOHに強引にくっつきます。

そして、先ほどお話したことと同じで、電気的につり合いがとれていたところへ水素イオンが強引にくっついてしまい、余分にプラス(+)の荷電が生じてしまいます。

したがって、土壌溶液が酸性のとき、腐植ではプラス(+)の荷電が生じます。

土壌溶液がアルカリ(塩基)性のとき(粘土鉱物の場合)

つぎに、アルカリ(塩基)性のときの粘土鉱物の場合を見ていきます。

酸性のときとは違い、アルカリ(塩基)性のときはシリカ四面体シートとアルミナ八面体ともに同じ仕組みで荷電が生じます。

こちらが、土壌溶液がアルカリ(塩基)性のときのシリカ四面体シートの様子です。

そして、こちらが土壌溶液がアルカリ(塩基)性のときのアルミナ八面体シートの様子です。

いずれの場合も、構造の端っこにくっついていたH原子が、水酸化物イオンに奪われて水分子になってしまいます。

その結果、構造の端っこにあるO原子のマイナス(ー)の荷電が余り、土壌粒子にマイナス(ー)の荷電が生じることになります。

つまり、土壌溶液がアルカリ(塩基)性のとき、粘土鉱物ではマイナス(ー)の荷電が生じます。

土壌溶液がアルカリ(塩基)性のとき(腐植の場合)

さいごに、アルカリ(塩基)性のときの腐植の場合です。

下の図を見ていただければわかるように、粘土鉱物と同様の仕組みで荷電が生じます。

COOHのH原子とOHのH原子が水酸化物イオンに奪われて水分子となります。

その結果、O原子のマイナス(ー)の荷電が余り、腐植にマイナス(ー)の荷電を生じさせるのです。

したがって、土壌溶液がアルカリ(塩基)性のとき、腐植においてもマイナス(ー)の荷電が生じます。

まとめ

今回は盛りだくさんの内容でしたが、要点をまとめると次のようになります。

  • 土壌粒子は粘土鉱物(無機物)と腐植(有機物)からできている。
  • 土壌粒子の荷電は粘土鉱物と腐植によって生じ、生じる荷電には永久荷電と変異荷電の2種類がある。
  • 永久荷電は安定した荷電で、マイナス(ー)の荷電しかなく粘土鉱物の構造が変形することによってのみ生じる
  • 変異荷電は不安定な荷電で、土壌溶液のpHによってプラス(+)の荷電が生じたり、マイナス(ー)の荷電が生じたり、荷電が生じなかったりする。それらは粘土鉱物と腐植で違いがある。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする