最大11倍の穀物が必要!?お肉1kgを生産するのに必要なえさの量がめちゃ多いことについて

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みなさん、お肉は好きですか?

牛肉といえば、ステーキすき焼き

豚肉といえば、チャーシューベーコンハム

鶏肉といえば、からあげ焼き鳥

が思い浮かびます。

お肉は料理に欠かせない存在といえますよね。ここに挙げた料理や食品が大好物の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

ところでみなさんは、これらのお肉を生産するために、その何倍もの量のえさが使用されていることをご存知ですか?

おそらく、そんなことを意識したことがない…(^^;という方がほとんどではないでしょうか。

また、中には「それに何か問題があるの?」と疑問を持った方もいらっしゃると思います。

家畜に与えるえさは穀物が主原料なので、もちろん家畜のえさ用の穀物を生産しなければなりません。では、家畜のえさ用の穀物の生産が、私たちが食べる穀物の生産量を妨げているとしたら…どうでしょう?

というわけで今回は、

  • お肉1kg(牛・豚・鶏)を生産するのに必要な穀物の量はいくらなのか?
  • 家畜のえさの原料となる穀物の生産を食用の穀物の生産に回せばどうなるか

を紹介します。

この記事を通して、みなさんが何気なく食べているお肉が生産されている背景を知っていただければなと思います。

お肉1kg(牛・豚・鶏)の生産に必要な穀物量は?

お肉の種類には牛や豚や鶏のほかにも馬や鹿、羊などの肉がありますが、今回は主要な牛肉、豚肉、鶏肉にスポットを当てています。

青のり氏のブログ零細米粉研究員の備忘録が紹介している農林水産省の「我が国の食料自給率ー平成15年度食料自給率レポート」によると、牛肉を1kg生産するには11kgの穀物が、豚肉を1kg生産するには7kgの穀物が、鶏肉を1kg生産するには4kgの穀物が必要であるとされています。

数値だけではピンと来ないと思うので、この値をもとにイラストにしてみました。

このイラストを見て分かることは、

お肉1kgの生産には、その4~11倍もの穀物が必要であるということです。

さらに注目してもらいたいのは、牛に必要な穀物の量が多いこと。

豚も多いように見えますが、豚は鶏の1.75倍必要なのに対して、牛はなんと鶏の2.75倍必要になります。

必要なえさが多い=コストが高くなるということなので、鶏肉が安く牛肉が高いというのはうなずける気がしますね。

ただし、このデータが示す穀物の量は、実際に与えているえさの量をトウモロコシに換算した場合の量です。実際のえさにはトウモロコシや小麦などの穀物のほか、栄養バランスを考えてビタミンやミネラルなどが配合されています。家畜のえさについて詳しく知りたい方は、鶏に与えるえさについては畜産ZOO鑑(鶏の育て方)を、牛に与えるえさについてはりんたらくと畜産Q&A(肉牛・乳牛)を、豚に与えるえさについてはりんたらくと畜産Q&A(豚)を見てみてください。

家畜のえさに使う穀物を食用の穀物に変えたとしたら?

このままお肉の生産を続けると、食糧不足を招く!?

冒頭にお話ししたように、家畜のえさの主原料は穀物であるため、家畜用に穀物を生産しなければなりません。

おもに家畜のえさに使われる穀物とは、小麦やトウモロコシのことを指します。

ここで少し考えてもらいたいのは、家畜用に生産している穀物の分を、食用の穀物に変えるとどうなるのかということです。

お肉1kgを生産するのに必要な穀物が一番少ない鶏肉でさえ、その4倍のえさが必要になるわけですから、ある意味では

お肉を生産するということ=何倍もの穀物を余分に生産して肉にしている

と言えなくもありません。

これにいったい何の問題があるのでしょうか?

それは将来起こりうる食糧不足に対する懸念です。

現在、人口増加による食糧不足問題の発生が危惧されていますが、その理由の一つとして農地に限りがあることが挙げられます。

というのは、すでに多くの土地を農地として開拓してきたために、これ以上農地を増やすことができないからです。にもかかわらず、絶えず人口が増加し続けることによって食料生産が追いつかなくなってしまうことが問題視されているのです。

そんななか、お肉の生産のため、つまり何倍もの穀物を生産するために貴重な農地を使い続けていいのでしょうか?

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家畜のえさに使う穀物を食用にすれば、40億人の人口を養える!?

それでは、これら家畜のえさ用に栽培している穀物を人間の食用となる穀物に変えたらどうなるのか?

このような検証がアメリカのミネソタ大学のCassidy氏らの手によって行われました。

その論文がコチラ(全部英語ですが一応載せておきます) →Redefining agricultural yields: from tonnes to people nourished per hectare

※この検証では、家畜用の穀物以外に燃料用の穀物も考慮に入れています。ただし、家畜用の穀物に比べて割合は小さいため、家畜用の穀物の影響の方が大きいと考えています。

※※また、この検証では牧草や野草など、人が食べることのできない作物によって飼育された家畜については除外されているので、人がまったく肉を食べなくなるということは想定されていません。ただ、この検証のような社会になってしまうと、肉に希少価値がついて高価になってしまうかもしれませんが(^^;

はじめに言っておきますが、この検証では、家畜のえさに使う穀物以外に燃料用の穀物も考慮に入れているだけでなく、主要な作物41品目すべてを考慮に入れているため、この見出しには語弊がありますね。ごめんなさい汗

気を取り直して、この検証の概要を説明すると次のようになります。

  1. 世界で生産されている主要な作物41品目(穀物、野菜、果物など)の生産量から全世界で生産された総カロリーを計算したところ、9.46兆(9.46×10^15)カロリーだった。
  2. 全世界で生産された総カロリー(9.46兆カロリー)のうち、人間が直接摂取したカロリー、家畜に与えたカロリー、そして燃料などほかの用途で消費されたカロリーの内訳を計算すると、それぞれ55%、36%、9%となった。
  3. 熱量変換効率(どれだけのえさを与えて、どれだけの肉を得たか?)に基づいて計算された結果、家畜のえさとして与えたカロリーのうち、88%が失われ、人の摂取カロリーとなったのは(36×0.12=)4%であった。
  4. 2.と3.から、全世界で生産された総カロリーのうち、人が直接摂取したカロリーは(55+4=)59%で、残り41%ものロスが生じているという結果になった。

このことから考察できることを、その論文を日本語で要約した西尾道徳氏による「環境保全型農業レポート」の記事から抜粋してお話しします。

したがって,飼料や他用途に使用された食用作物を人間の直接消費用に振り向ければ,食料中のカロリー量が3.89×1015カロリー分増加し,5.57×1015から9.46×1015に,約70%増加する。1兆(1.0×1015)の食料カロリーは10億人の人間に,1日当たり2,700カロリーの食事を1年間(年間985,500カロリー)供給するのに十分である。それゆえ,飼料や他の利用に使用されている作物カロリーを人間直接消費にシフトさせると,養える人口を約40億人増やせる可能性があると計算される。

出典:西尾道徳の環境保全型農業レポート

また、これを農地面積1ha(ヘクタール)あたりに養える人口で計算するとよりすごさを実感できるのではないでしょうか。

1日当たりの適切な供給熱量を2,700カロリーとして,食用作物41品目の栽培面積である耕地9億4700万haで生産した食用作物を,現状のように家畜飼料やバイオ燃料にも利用していると,世界平均でha当たり6人しか扶養できないが,食用作物を全て人間が直接摂食するようにすれば,ha当たり10.1人を養える計算になる。

出典:西尾道徳の環境保全型農業レポート

ha(ヘクタール)、ここでも出てきましたね!(笑)

ヘクタールについては過去の記事1ha(ヘクタール)は何㎡? 農地面積によく使われるa(アール)やha(ヘクタール)について」で説明しているので参考にどうぞ。

家畜のえさに使う穀物をすべて食用に回すのは非現実的…しかし、いくらでも工夫する手はある

これはかなり極端な想定であるのは比較的容易に想像できます。

たとえ現段階で41%ものカロリー損失が出ていたとして、そのすべてを人が直接摂取するカロリーに変えたならば、私たちはほとんど肉を食べることができなくなってしまうことに…

それは検証したCassidy氏らも同様に考えており、以下のような方法を具体例として挙げています。

全ての食用作物を人間の食料用にすることは,世界の人々が,畜産物の消費を草で飼養した家畜や,捕獲した野生の鳥獣からのものに限定することを意味する。しかし,そこまでの変更をしなくても,別のシナリオとして,穀物給餌の肉牛生産を止めて,その分を豚と鶏の生産に変更すれば,飼料転換効率を12%から23%に高めて,世界のカロリー供給量を6%(3.52×1014カロリー)増すことができ,1日2,700カロリーの食事を食べられる人を,3億5700万人増やせることになる。また別のシナリオとしては,肉生産に振り向けられている飼料を,全てミルクと卵の生産(乳と卵を食べるベジタリアン食事)に切り替えれば,飼料転換効率を35%に高めることになり,カロリー供給を14%(8.04×1014カロリー)増やして,8億1500万人の扶養を増やせることになる。

出典:西尾道徳の環境保全型農業レポート

この場合だと、もっともえさを必要とする牛肉の生産をやめることでカロリーの損失を減らすことになります。

つまり、家畜のえさや燃料として使う穀物をすべてなくして、人の食料に回すような極端なことをしなくとも、養える人口を増やす方法があるわけですね。

私たちは今まで考えてくることのなかった普段の食事についてもっと深く考えていかなければならない時期に来ているのかもしれません。

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